FS事業(事業化可能性の調査)

複合的技術未開拓分野プロジェクト 事例

AI、IoT技術活用を得意としソリューションを提供するSIer企業の
「未開拓分野へ 複合的なAI・IoT技術の活用」をプロジェクトとして支援し、F/Sを行うことで、
変化を続ける産業構造に適応できる新たな導入モデル化を促進し、
導入ノウハウを蓄積・共有することを目的に生産性向上に取り組む中小企業を対象に実施しました。

サービス業/宿泊

実施概要

支援先中小企業のニーズ・課題

日本屈指の温泉街、道後温泉。
道後温泉というブランドもあり、コロナ禍であっても全国からの来客が多数いらっしゃいます。
加えて、「道後御湯」は、個人型高品質をサービス打ち出しているお宿です。高級旅館予約サイトの”一休“では、常に四国で3位に入るトップクラスの人気を誇ります。
高級路線を打ち出し、かつ人気のお宿で問題になってくるのが、混雑対策です。
宿泊者にとって、高級ホテルに求めるものの一つに、「ゆったりした時間を過ごしたい」というものがあります。
宿泊者は、食事時はもちろん、温泉でもゆったりと過ごしたいと考えます。全客室に温泉露天風呂が完備されているものの、最上階にも松山城下一望の温泉大浴場・露天風呂も設置されており、滞在中どちらも複数回楽しみたいというニーズが高い状況です。
一方、コロナ禍のため、人との接触を極力避けたいと考える宿泊者もいます。
ホテル側は大浴場を常にスタッフを配置し、混雑時は入場を制限するなどの処置をしたいと考えますが、お客様のプライバシー配慮やゆったり過ごしていただく配慮を勘案すると、人員配置は現実的ではなく、何かいい方法がないかを模索されていました。

■ホテルのブランド戦略の一環として…
高級ホテルのブランド戦略は非常にセンシティブです。
「売り上げを伸ばすためにお客様をできる限りお招きしたい…」
「宿泊者は高級ホテルにゆったりした時間を過ごしたい、混雑を避けたいと望まれているので、まずは混雑する状況を無くしたい…」
これら2つの考えは相反します。

弊社の取引先の一つに高級リゾートホテル様がいらっしゃいます。
現場の担当者と話す機会が多いのですが、彼らは一様に「混雑」に対して気を遣っています。コロナ禍でない状況の時からです。
それは混雑に対するクレームが多いからです。
宿泊者の立場からすれば、高額な宿泊費を出しながらサービスを受けるのに列をなすなどあり得ないからです。
自身がその立場になって考えてみると、それは当然の事と思えます。

ひとつ興味深い話があります。
2020年の夏。取引先の高級リゾートホテルのプール施設で、新型コロナウイルス感染症対策としてお客様を定期的にプールから上がってもらい、その後ホテルスタッフによって時間をかけて徹底的に消毒した後、再びプールを使ってもらっている、というお話を聞きました。このタームを1日10回ほどこなしていると聞いたとき正直驚愕させられました。

消毒という実質的な行為はもちろんですが、私が感じたのは「さすが高級リゾートホテル」ということです。
お客様を安心させ、ブランドを守る為にここまで労力をかけられる。その姿勢に感服しました。

高級ホテルに限らず、ブランドを大切にする企業は、「対策をしている」という「思いをカタチにする」ということが必要になります。
いくら裏方で労力をかけ、混雑対策をしていても、宿泊者にその事実(裏方の労力)が伝わらなければ、そのまま見過ごされてしまうからです。

例えば食事を例に…
「~産の高級食材を使用しています…」「完全無農薬です…」
これらは「おもてなしのカタチの見える化」の一つです。

提供者にとっては当たり前の事であっても、サービスを受ける者にとっては情報が伏せられると、例えばこう思われるわけです。
「無農薬」ではないんだ…

「見える化」は付加価値ではありません。必須対策です。
これらの事、ブランド対策を前提にも、ホテル様は有効な混雑対策を求められていました。

課題の解決方法

課題の解決方法として、弊社はまず状況把握に臨みました。

  • ・宿泊数に対して大浴場のキャパシティーは限られ、変更することはできない
  • ・客室には部屋風呂もあるが、「大浴場で入浴したい」には応えることが出来ない
  • ・立地する道後温泉にはいわゆる「外湯」が多数存在する
  • ・大浴場にはホテルスタッフが常駐していない
  • ・IoTを取り入れセンシングさせる方向だが、入浴施設という事、高級ホテルという事で、プライバシーを守るためにカメラでのセンシングは不可能

これらを踏まえ、以下の手法を考えました。

■宿泊者に入浴してもらう時間をずらして混雑を避けてもらうという手法
リアルタイムの入浴施設の混雑情報を提供し、お客様自身の判断で入浴時間をずらしてもらう方法。

■道後温泉の「外湯」も利用してもらうという手法

ホテル内の景色の素晴らしい大浴場を楽しんでもらうのももちろんですが、国内屈指の温泉地「道後温泉」の外湯も堪能してもらうというのも一つの手法であると考えました。
実際、温泉地のお宿の使われ方の一つでもあります。

本サービスの真骨頂でもある、ネットワーク機能を使用し、同時に2か所の温泉施設の混雑度を測り、WEB上で情報を一元化し表示させるという方法。

■プライバシーの保護

高級ホテルか否かに限らず、宿泊施設において、カメラでのセンシングは非常に嫌われます。
ゆっくり楽しみに来ているにもかかわらず「監視されている感」は、宿泊者にとってストレスでしかないからです。
中には、「写真映像から個人情報を裏で取っているのでは…」と疑われるお客様もいるという話を聞きます。
「今後あのホテルは使わないようにしよう…」と思われてしまいますと、ホテル側にとっては死活問題となります。

従ってカメラ映像を用いたセンシングは不可と判断しました。

上述を踏まえ、プライバシー保護を前提に「非カメラ」によるセンシング方法を選択し、開発しました。

■ソフトウェアの設計

リアルタイムによるセンシングを反映させる為の機能はもちろんの事、あらゆる表示媒体を想定(大型のデジタルサイネージ、PC、タブレット、スマートフォン)し、設計しました。
管理者側のシステム管理画面もあらゆる表示媒体(PC、タブレット、スマートフォン)で操作できるよう配慮しました。

■人間センサー(スタッフ自身がセンサーになる)を取り入れる

人間の感覚を介入させる。
本システムでは、センサーに頼りっきり…という事をさせない工夫をしました。

簡単に人間の感覚を介入させる事が出来るよう設計されています。
それは、センサーの感覚より、人間の感覚の方が優れている場合もあるからです。

例えば…
団体客が退出する場合などはスタッフが事前に予見し、「空いている」とメッセージを配信させる事が出来ます。

このような臨機応変はセンサーにはできません。

私たちはこのことを「人間センサー」と呼んでいます。

FS実施内容

今回は、男湯をホテルの「内湯」、女湯を「外湯」と想定してセンシング機器を設置し実証実験を行いました。

センシング機器およびシステムの製作について

■センシング機器の製作で重点を置いたこと

・センシング機器の外見

物々しいセンサーは、それを見る人によっては威圧感を与えます。
加えて、カメラのような見栄えは「非カメラ」を目指して制作しているにもかかわらず、誤解を招きこのセンシング機器の特徴をスポイルしてしまいます。
できる限り小さく、かつ威圧感を与えないことを念頭に、センサー機器の入れ物の選定、およびデザインで製作しました。

・大浴場の近くで高温多湿が想定される
センシング機器において、高温多湿は大敵です。
安定稼働させるために、放熱に重点を置きました。

・センシング機器の設置の容易さ

センサーは、出入口に地上90センチ前後の高さで設置します。
非常に手軽に設置が可能で、万が一不具合が生じた場合でも、簡単に取り外すことが出来メンテナンスが可能です。

■システムの設計で重点を置いたこと

(管理者側)
・システムの使用者はホテルのスタッフで、センシングの専門家ではない
これらを踏まえ、絶対に迷わない、かつネットワークの機能を生かし各施設の状況を一度に把握できる設計を目指しました。
かつ、センシングデータを時系列でログを取り、過去の施設の混雑パターンを見ることが出来るようにしています。

【道後御湯_男風呂】

■実際にセンサー機器を設置し問題が発覚したこと

(センサー機器の設置自体)

センシング機器自体は、それほど不具合は発生しませんでしたが、機器の設置には苦慮いたしました。

地上90センチ前後に設置するという事で、設置は簡単にできるのですが、小さくても目立つのはもちろん、設置方法に頭を悩ませました。

具体的には、センシング機器を設置するために、壁に穴をあけて…というのは、もちろん施設側として避けたいところです。
高級なホテル様ですとなおさらです。

地上90センチ前後に設置すればよいという設計のおかげで、小さい机の上に固定すればいいことが分かり、解決することが出来ました。

(センサー設置に関しての今後の課題)

設置自体は容易にできますが、人の手の届くところにセンサーを設置することになりますので、人がセンサー機器に接触したりという問題も出てくると思われます。
それらを解決させる為に、更なる小型化などが課題となっています。

【道後御湯_女風呂_外湯と想定して】

得られた知見・成果ならびに事業化への課題

■技術的な知見

安定性のあるセンサー機器を使用して臨んだため、技術的な新たな知見はそれほど多くはありませんでした。
ただ、弊社オフィス内でのセンシングで問題なく稼働しているとしても、実際の現場では、不具合が生じた…というものがあります。
システム側の話になりますが、センシングの扱う数量がオフィス内では少なく、問題が表面化しにくく、発覚が遅れました。

今後は、センサーをテストするための機器の開発も必要になると実感させられました。

■「センサー機器と人」の関係の知見

本センサー機器は、宿泊客に見える位置に設置するものです。
宿泊客がそのセンサー機器を見てどう思われるのかも配慮し設計しましたが、小さいプラスチックの箱からアンテナのようなものが出ていますと、「何だろうか…」と思われるのは必至で、今回は、センサーの横に、「混雑度を計測する機器で、カメラではありません」という張り紙を付けてもらいました。

離れたところでお客様の反応を見ていても、やはり気になる様子の方がいらっしゃいました。

これからの時代、IoT機器は人の周りに増えていきます。
「センシング機器を小さくして隠す」という方法もありますが、「安らぎや安心感を与えるデザインを施し、積極的にセンシング機器を見せる」という方法も考えられます。

今後の課題として、このIoT機器が人と自然に馴染むものになるよう更なる改良を重ねたいと考えております。

■成果について

(システム導入前)
これまでは、道後温泉の数ある外湯をホテルとして案内することは難しい状況でした。
道後温泉という国内屈指の温泉地で、外湯の混雑度を把握できない状況で案内することは、お客様に負の体験(混雑による)をさせる事もあり得るからです。

旅行において混雑はなかなか良い体験にはつながりません。

宿泊客が内湯の混雑を避けることも出来ず、大浴場の前まで来て引き返すという事も多々ありました。

(システム導入後)
今回は、道後御湯ホテルの女風呂を道後温泉の数ある外湯の一つに見立て、ネットワークとしてセンシング情報を共有させることが出来るのか、実証実験をしました。

結果、ネットワークを使い同時に2か所のセンシングを行い、それを一つのWEBページ上でリアルタイムに混雑度表示させることが出来ました。

これにより、道後御湯ホテル館内の素晴らしい風呂はもちろん、今後は外湯も混雑を避けつつ楽しむことが出来るようになると思われます。

実際宿泊者へのインタビューでも、「温泉の選択肢が増えることは良いこと」とおっしゃっていました。

ホテル側が外湯の混雑度を把握し、宿泊客に対して、混雑のない外湯を案内することが出来るようになります。
その事により「館内の内湯の混雑が解消される」という嬉しい結果にもつながるだろうと大変期待をされています。

FS実施後の状況、今後の展望

■センシング機器の導入について

センシング機器は、商品として完成したものになりました。
ただ、センシング機器は高価なものとなり、最初から導入するのには少々ハードルが高い状況です。
現在コロナ禍で、宿泊業は厳しい状況にあるというのも考慮し、まずは、上述しました「人間センサー(スタッフが各施設の混雑度を目で見て把握し混雑度の情報発信をする)」によるシステムの使用をして戴くことになりました。

人間センサーによる運用を経た後、センシング機器による施設の混雑度の自動発信へ移行したいというご要望を戴きました。

■今後の展望

(他のシステムとの融合)

ホテルのスタッフ様とこれらの混雑度の表示システムの話をしていると、この混雑管理システムだけではなく、ホテル業界全体の傾向としてまだまだIT化が遅れている旨を伝えられ、「このようなシステムはできないか?」という要望が複数ございます。

どれも弊社が得意としている「情報共有」をベースにしたシステムで作成可能であり、この混雑度表示システムと融合させビジネス展開を目指しております。

SIerとしてFS実施後の事業展開

今回、ホテル施設においてセンサー機器の開発、システム開発を行って成功しました。

今後は、宿泊業に限らず、あらゆる施設利用者の顧客満足度の向上の為や、コロナ禍対策として、本システムの導入を見込んで販路を広げていきたいと考えてします。

(街レベルでの混雑・三密回避ソリューション)

更に、施設内の混雑度だけを表示するのではなく、街中の観光施設で本システムを導入させ、例えば…美術館、商業施設、動物園、遊園地、神社仏閣などに導入させて、「美術館は混んでいるから先に商業施設に行こうか」など、各施設の混雑情報を一元化させ、それらの情報を頼りに「混雑のない質の良い時間の過ごし方」を提案できればと考えております。

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