FS事業(事業化可能性の調査)

検査・管理/農業/果菜類生産

実施概要

支援先中小企業のニーズ・課題

日本の栽培施設における生産性は、先進国のオランダに比べて、多くて数倍の開きがある。例えば、トマトの場合、日本の生産量は10aあたり20~30t/年であるのに対し、オランダでは50~100t/年と、大きな開きがある。これは、生産性の高い品種を用いているという違いや、周年栽培による生産効率化の違いもあるが、環境制御の最適化による影響も大きいとされ、その貢献度は20~30%程度あると見込まれている。この差に大きく貢献しているのは、農業コンサルタントの存在で、オランダでは週1でコンサルタントが栽培施設を訪れ、環境管理のパラメータの最適化を行う。これは、オランダの産地形成の影響が大きく、産地の一つのWestLandでは、およそ20km四方の範囲内に、数haサイズの大規模温室が集中して建築されている。このため、自然環境の地域差も少なく、コンサルタントも移動距離が少なく効率的に複数の施設にアドバイスできる。
日本は、世界で有数の施設栽培面積を誇り、5万ha弱、100万棟の施設が存在するとされる。しかし、日本の栽培施設は平均5a(500平米)と、施設規模は世界に比べて小型で、産地も日本各地に点在し、自然環境の地域差がかなり大きい。このため、栽培環境の最適化を求めようにも、コンサルタントが巡回できる環境になく、それ以前に経営規模が小さいため、コンサルタントに依頼するにも経営規模に対して費用がかさむ。

現在、ほとんどの生産者は、作物の光合成効率がどの程度かを把握できない。植物体が生育し(栄養成長)、花芽を付け、結実し果実肥大(生殖成長)する成長速度は、光合成量に比例する。このため、光合成がいかに効率的に行われるかは、生産性に大きく影響を与える。したがって、農業生産の経済性を把握し、向上させるためには光合成計測が有効になるが、従来は実験室レベルか、大規模な計測システムが必用となっていた。

課題の解決方法

簡易設置が可能な光合成モニタ装置を提供する。
光合成は、温度、湿度、光量(光質)、気流(風速)、CO2濃度、水の6要素に依存し、この中で最も供給量が少ない要素に律速される。光合成を計測する手法は、以前から様々に試行されており、密閉された容器(チャンバー)に植物体を入れ、供給する気体の、植物体の前後に計測点を設けて、その計測差により求める方法、葉っぱの一部を小型チャンバーで挟み込み、そこに温湿度やCO2濃度を制御した気体を付与して植物体の物質吸収量を計測する方法、植物細胞にマイクロ電極を取り付け、光合成の反応系で発生する僅かな電位を検出する方法、光合成反応を起こすクロロフィル濃度を蛍光反応で検出する方法などが試みられている。しかし、そのほとんどが実験室などの整った環境で実施可能なものや、栽培環境とはかけ離れた周囲環境で計測されるため、その群落の代表値にならないもの、検出装置が100万円以上を非常に高価であるものなど、栽培施設で経営目的に用いるには問題が多かった。
提案する光合成モニタ装置は、温湿度センサ、光量(光合成光量子密度)、CO2センサ、気流センサを備え、それらの値を元に光合成量を推測するものである。精度よりも手軽さおよび低コスト性を優先する。また、これらセンサのうち、低コスト化および高耐久性に問題があった気流センサは、SIer提案企業が技術および製品を有しており、より実用的かつ長期安定が可能な装置の提供が可能になる。

本装置の導入によって、以下のステップによる経営高度化に寄与する。
第1ステップ: 光合成量の日変化による植物特性の把握。
第2ステップ: 環境制御システムパラメータの適切変更による光合成増進の試行。
第3ステップ: 光合成増進による生産量の増大による付加価値額の増大。

元東京大学名誉教授で、日本における施設園芸の環境制御研究の基礎を築いた、高倉直博士が開発した計測法を用いる。
SIer提案者は、内閣府「PRISM(官民研究開発投資拡大プログラム)」の、革新的フィジカル空間基盤技術領域で「人工知能を活用したきめ細やかな栽培環境を実現させる計測・制御ユニットの開発」テーマで農研機構や、産総研、慶應義塾大学、早稲田大学、日本大学ほか民間企業数社と共に研究コンソーシアムを構成し、農業現場に求められるセンサや計測法の他、情報流通法、シミュレーションなどの研究を行った。この研究の実施メンバに高倉博士もご参加頂き、新たな計測法の研究に並行して、学会発表済みの本光合成モニタ装置のプロトモデルの試作を行った。
PRISMで試作した光合成モニタ装置は、それまで3台ほどしか試作されていなかった同試作品(原型モデル)を、複数の研究機関でも評価利用可能な様に、数量生産が可能な様に再設計し小型化を図ったものとなった(PRISMモデル)。しかし、搭載している風速センサ(気流センサ)は、微細ワイヤーを用いる方式のため耐久性に乏しく、経済栽培施設で用いるには課題が残った。また、原型モデルで用いられている設計技術が古く、プロセッサの処理能力が低く、ソフトウェアの発展性に乏しく、IoTを構築するにも制約が生じた。手作り部分が多く残り、量産に不適な設計が残った。技術成熟度レベルは、TRL3~4の状態にある。
これを、センサ類はより耐久性の得られるセンサ(具体的には、SIer実施者が開発した風速センサ)で構成し、かつ回路や構造を、より栽培施設で活用しやすい設計にし、将来拡張性も備えたパッケージに再構築する。これによりTRL6の試作機を用意する。

今回は、トマト生産者でのF/Sを行うが、光合成計測を求められる作物は、トマトなどの果菜類だけでなく、葉菜類や花き栽培でも需要が見込める。また、施設栽培のみであれば市場は5万ha弱であるが、防水性を付与し露地栽培でも利用可能なセンサに仕立てれば、約400万haの農地がターゲットとなりうる。

FS実施内容

開発した光合成モニタ装置は、温湿度センサ、光量(光合成光量子密度)、CO2センサ、気流センサ、放射温度センサを備え、それらの値を元に光合成量を推測するものである。精度よりも手軽さおよび低コスト性を優先する設計とした。また、改良前の従来品で、低コスト化および高耐久性に問題があった気流センサは、ホルトプランが開発し、実用的かつ長期安定が可能な低指向性風速センサに置き換え、また情報処理能力を高めるために、主演算器にARMマイコンを使用した。また、通信には汎用性の高い、Wi-Fi通信を装備させた。
この光合成モニタ装置を、栽培施設内に2か所ないし3か所設置し、これらの値を総合して光合成量を推測する。

開発した光合成モニタをユーザ企業の栽培施設で仮設置し試験運用を開始しようとしたが、COVID-19感染拡大にともなう大阪府への蔓延防止処置の適用および緊急事態宣言の発令により、現地訪問ができなくなった。また、新型コロナの影響等により、半導体の入手に問題が生じ、改良品の準備に時間を要した事、およびコロナ禍の状況であるため、感染拡大防止の観点から、開発や現地訪問に制約が出たことなどから、十分な検証時間を得られていない。今後、感染状況の様子を見つつ、ユーザ企業の協力を得ながら、現地実証を行っていく。また、2021年度から、2本の国の委託事業を実施していくが、この中でも実証や応用法の模索が行われる予定となっている。

今回は、予算および時間の都合上、制御装置との連携は行っていない。本品の計測結果を元に、環境制御パラメータおよび制御手法を変更すれば、より短期間でより効率的な生産効果を得られる。しかし、環境制御との連動は、研究レベルにあり、今後の技術開発を経る必要がある。
一方で、生産者の期待値は高く、このようなモニタ装置の計測値のみの利用だったとしても、「見えない」状況が「見える」ことにより、現場レベルでの試行錯誤やPDCAの活性化が期待できる。また、普及員やコンサルタントが適切なアドバイスを行うためのツールとしても活用可能性が期待できる。

得られた知見・成果ならびに事業化への課題

高倉博士の方式で、長期運用可能な耐久性を備えたモデルは、このモデルが初めてである。長期動作安定性や、長期設置の問題点、植物生産施設に独特の環境(天井からの水滴のボタ落ち)への耐性などの検証が必要になる。

また、蒸散量や光合成量を把握できた上で、その数値をどのように生産性の改善に生かすかの方法論も、今後開発される必要がある。

FS実施後の状況、今後の展望

1)光合成モニタそのものの事業展開可能性
日本の栽培施設面積は、およそ4.5万haであり、施設平均面積は5aであるため、棟数はおよそ90万棟と推測される。果菜類の生産数量の8割前後は、施設栽培での生産品となっている。一方で、耕地面積は437万haで、施設栽培面は全体の1%にしか過ぎない。
今回、開発した光合成モニタは、栽培施設など降雨のかからない場所での使用を想定した設計とした。前述のとおり、全栽培施設に1台ずつ導入された場合、90万台の市場があることとなる。モニタ装置の普及価格を5万円、装置寿命を10年と仮定すると、45億円/年の市場が見込まれる。
さらに、本モニタ装置に防水対策を施した場合、露地栽培への適用も期待できる。露地栽培は、施設栽培に比べて1/10程度の生産効率ともいわれるため、仮に1haに1台の割合の設置とすると、437万台の市場があることとなる。防水対策品を6万円、装置寿命を10年と仮定すると、2622億円/年の市場があることとなる。
この数値は、普及率100%の仮定数値であることに注意が必要である。
栽培施設において、暖房機の普及率が42%であったり自動窓開閉装置の普及率が12%であることから、仮に10%の普及率であった場合でも、9万台で4.5億円/年の市場規模が存在することとなる。
一方、露地栽培は施設栽培ほど投資意識が低く、電源や通信インフラが未熟である。ホルトプランでは、別プロジェクトで、独立電源や長距離インフラの試験を行っており、これらの問題解決の可能性があるが、ここでは議論をシンプルにするために技術革新の可能性は排除する。仮に普及率が5%とした場合でも、約22万台で131億円/年の市場規模が見込まれる。
今回は、高倉直博士らが考案した機器構成を、小型化、堅牢化、処理能力向上化を図ったが、いくつか技術課題が残されている。一つは、計測精度を得るためには、メンテナンスやキャリブレーションをユーザに求める事、センサの設置性に課題が残っており、作業者が通る通路上の設置が望まれる事、など研究・改良余地が残されている。今後は、農研機構と協力し、市販化に向けた改良および使い勝手の向上を上げていく。
なお、本品は、研究分野での活用も期待されている。このため、一般生産者向けよりも早い段階で、研究者向けの販売を開始する見込み。

2)副次効果への期待
ここ数年、スマート農業による生産効率化に期待が高まっている。また、政府は次世代社会としてSociety5.0をキーワードに挙げており、大阪関西万博のキーワードになっている。さらに、菅首相の所信表明演説で公表された様に、2050年のカーボンニュートラル実現に向けた社会活動が求められてきている。
本品は、無線による通信能力を持ち、インターネットとの親和性も高い。このため、スマート農業機器の一つとなり得、またSociety5.0に対応するための能力を付与可能な設計としている。このため、産地での生産効率向上の比較や、消費者へのアピール情報源など、本品および本品の通信機能を用いた活用可能性が考えられる。

SIerとしてFS実施後の事業展開

1)直近の研究への利用
ホルトプランは、2021年度から、脱炭素社会実現のための、国の研究事業に参画する。NEDOの「NEDO先導研究プログラム/新技術先導研究プログラム」と、農林水産省の「脱炭素型農業実現のためのパイロット研究プロジェクト」に採択されている。

課題名 「農山漁村地域のRE100に資するVEMS開発」
中核機関 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
実施期間 2021年度~2022年度
参画機関 国研)農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)
農村工学研究部門(農工研)
農業技術革新工学研究センター(革新研)
国研)産業技術総合研究所再生可能エネルギー研究センター(FREA)
学校法人慶應義塾大学理工学部 西宏章研究室
学校法人早稲田大学創造理工学部 田辺新一研究室
国立大学法人東京大学生産技術研究所 
国立大学法人京都大学大学院工学研究科
三菱電機株式会社 先端技術総合研究所 ソリューション技術部
千葉エコ・エネルギー株式会社
ジオシステム株式会社
ホルトプラン合同会社
課題名 「脱炭素型農業実現のためのパイロット研究プロジェクト」
中核機関 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)
実施期間 2021年度~2025年度
参画機関 国研)農業・食品産業技術総合研究機構
農村工学研究部門(農工研)
中央農業研究センター
農業環境変動研究センター
畜産研究部門
北海道農業研究センター
国研)産業技術総合研究所センシングシステム研究センター
学校法人慶應義塾大学理工学部 西宏章研究室
学校法人早稲田大学創造理工学部 田辺新一研究室
北海道立総合研究機構十勝農業試験場
栃木県農業試験場
ネポン株式会社
ホルトプラン合同会社

いずれも、農研機構が中心となって実施され、光合成モニタの開発に長年関わってきた農村工学研究部門がプロジェクト推進の中核となる。また、エネルギーマネジメントシステム(EMS)の重要センシングデバイスとして本光合成モニタを活用する予定としている。生産に影響しないEMSの構築や、再生可能エネルギーの効率的活用の手法実現において、植物状態の把握のための基準器としての活用が期待されている。

今回用いている手法は、まだ長期運用の実績がない。農研機構をはじめ、運用実績や運用法のフィードバック行い、本実証先の農場で活用していく形になる。

その他の特記事項

●試作品等の製作物

目的 光合成モニタ
用途 植物生産施設内に設置して、光合成を推定する。
機能 光センサ2式(光合成有効放射、放射温度計)、気温、湿度、CO2濃度、風速の計測能力を持ち、これらのセンサの値から、蒸散量および光合成量の推測を行う。
無線通信機能を備え、PCやインターネット上のサーバへの通信機能を備える。
目的の達成度 機能評価を行うには十分な機能を有する。 一方で、長期動作性や長期安定性については検証が必要で、商品化までには改良が必要と予想する。
製作物の現状 現地試験がコロナの影響により実証開始前であるため、SIer企業で保管・机上評価中
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