iRooBOマガジン

vol.9~ロボット法話に思う、技術の進歩と新しい価値観~

読んでフムフム・見てフムフム2020.02.13

こんにちは。マツイデです。

このコーナーは、わたくしマツイデが、ロボット関連の本や映画、見たいロボットや会いたい人など、読んだり見たりしたことを徒然なるままに綴る、ふわっとゆるっと読んでいただくコーナーです。お仕事の合間にでもお付き合いくださいね。

アンドロイド観音マインダー(鷲峰山高台寺)

 先日、京都東山にある高台寺に行った。高台寺は、豊臣秀吉の正室である北政所が秀吉の菩提を弔うために建立した名刹である。重要文化財や季節折々の美しい花で有名な寺だが、今回の目的は、文化財でも花でもない。アンドロイド観音「マインダー」の法話である。

 アンドロイド観音「マインダー」は、高台寺と大阪大学によって製作された観音菩薩像で、2019年春に開眼法要が行われた。当時メディアでも多く取り上げられていたが、今回、マインダーによる法話が再開されたということを知り、ぜひとも体験したかったのだ。

 マインダーの法話は、主に土日の午後に2回、約30分間行われる。日曜の高台寺は多くの参拝客で賑わっており、少し早めに会場に入ると、プロジェクションマッピングを投影するための壁も天井も真っ白な部屋の中に、マインダーは佇んでいた。
「テレノイド」を彷彿とさせる性別のない顔と、機械がむき出しの体。紛れもなくロボットだ。仕事柄かもしれないが、仏像を参拝しているという感覚にならない、というのが第一印象だ。この感覚は、法話が終わった後には変わっているのだろうか?

 法話の参加者は、私と友人以外に2組のみだった。マインダーは、高めの合成音声で般若心経について語る。すぐに理解するには難しい内容なのだが、双方向のコミュニケーションはできないため、プロジェクションマッピングで投影される映像の中の人々がマインダーに質問し、それに答えるという対話形式が取られている。
不思議な感覚だった。法話の間は、そこにいるのがロボットかどうかはあまり重要ではない気がした。マインダーは、瞬きをしながらゆっくりと周りを見渡すのだが、目が合った時には何かを見透かされているような気がして少しどきどきした。

マインダーを発案した和尚の考えはこうだ。仏教を広める方法は、はじめは文字を使い、次に絵を描き、仏像を作り、、、と、その時代に合わせて進化してきた。そして仏像の先に、動いて話すロボットがいたのだという。また、観音菩薩は何にでも姿を変えることができるため、今人々の関心を集めるアンドロイドという姿をとって現れたのだそうだ。

しかし、なぜだろう。法話の後も、マインダーに対しては、仏像に対して抱くような有り難みが感じられないのだ。もちろん人それぞれだと思うが、手を合わせて拝みたくなるかというと、そうではない。マインダーの足元にはお賽銭箱が置いてあるのだが、「維持費も大変だろうな」という気持ちで納めてしまった。

帰りに、高台寺近くの別のお寺に立ち寄った際、ご住職にマインダーについてどう思っておられるか聞いてみたところ、法話は対話が重要なのにそこが十分ではないというところに疑問を呈しておられた。また、法話をロボットに任せてお坊さんがサボっているのではないかと思われると困る、ともおっしゃっていた。

私はお寺巡りが好きで、仏像を見るのも好きだ。仏像の美しい造形には、そこに込められた祈りを感じる。だから思わず手を合わせたくなる。しかしロボットも人の手で造られたものだし、マインダーの機械の体も(好みはあるだろうが)美しいフォルムをしている。
仏像との違いといえば、経てきた年月の差か?そうすると何百年後には、マインダーも有難い存在と拝まれるようになるのだろうか。
「有り難さ」は、どこから生まれるのだろう。感情がなく煩悩に苦しむことのないロボットの法話は、説得力がないのだろうか。では、高名なお坊さんが遠隔操作しているロボットだったら?膨大な仏教の知識をインプットし、人々の問いに答える自律型のロボットだったら?

今の子どもたちは、生まれた時からスマホやインターネットがあり、Pepperなどロボットも身近な存在だ。そんな彼らはまた違った印象をマインダーに対して抱くのかもしれない。高台寺の係りの方がおっしゃるには、最初、マインダーを見て騒いでいた子どもたちの方が、大人よりも熱心に法話に耳を傾けているそうだ。

技術の進歩に合わせて新しい考えや方法が生まれ、それらに対して賛否両論含めて議論ができるのは良いことだ。特に子どもたちにとっては、この経験や議論が、「人間とはなにか」「生きるとはなにか」を考えるきっかけにもなりそうである。それは仏教本来の教えに繋がるだろうし、寺院が寺子屋としての役割を担うことにもなるだろう。そう考えると、マインダーはきちんと目的を果たしているようにも思える。

高台寺ウェブサイト

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