iRooBOマガジン

vol.8~AI時代だからこそ、“想い”が重いというお話~

読んでフムフム・見てフムフム2019.12.12

こんにちは。マツイデです。

このコーナーは、わたくしマツイデが、ロボット関連の本や映画、見たいロボットや会いたい人など、読んだり見たりしたことを徒然なるままに綴る、ふわっとゆるっと読んでいただくコーナーです。お仕事の合間にでもお付き合いくださいね。

「キャロル&チューズデイ」
原作:BONES、渡辺信一郎 総監督:渡辺信一郎 アニメーション制作:BONES

 私は高校時代からバンドを組み、今でも月1回くらいのペースでライブをしているが、こんなに長く続けている理由のひとつは、曲を作るのが好きだからだ。大学生の時に初めて自分で作詞作曲した曲をバンドで演奏したのだが、あの、自分の中にしかなかったメロディが曲のカタチを為して外に流れ出した時の衝撃は今でも忘れられない。大げさかもしれないが、これまで世の中に存在しなかったモノが生み出された感覚なのだ。その感覚を味わいたくて今でも音楽を続けていると言っても過言ではない。

 今回は、そんな楽しい曲作りをAIが行なっているという世界のお話。人間が火星に移住して50年後が舞台だ。

 地球から移住し難民キャンプで育ったキャロルと、母親が政治家でお嬢様育ちのチューズデイという正反対の二人が音楽で意気投合し、ミュージシャンをめざす。AIが流行りの音楽を生み出す時代に、キャロルとチューズデイはキーボードとアコースティックギターで曲を作る。AIを使うお金がないというのが理由らしいが、その曲が人々の心を打つ。なぜか?

 

 AIで音楽を生成する取り組みは、googleの機械学習プロジェクト「Magenta」をはじめ、ソニーコンピュータサイエンス研究所がSXSWで発表した「Flow Machines」、フランスの著作権管理団体に作家として登録されたバーチャル作曲家「AIVA」など、様々なものがある。これらについては、作曲家の仕事がAIに奪われるのか?といった視点で多くの考察がなされているが、現状、AIだけで作曲の全てを完結するのではなく、人間のクリエイティビティを向上させたり、作曲の過程で発生する単純な作業を行ったりするツールもしくはアシスタント、といった解釈が多い。

 その中でちょっと面白かったのが、AIに取って代わられないために重要なのは人間性、人間力だ、ということが多く書かれていたことだ。つまり、この人が作った曲だから聞きたい、という風に思ってもらうこと。

 確かに、どんな人がその曲を作ったかを知ることは曲に対する共感を生むことに繋がるし、良くも悪くも興味を掻き立てられる対象になる。

 例えば、ベートーヴェンが難聴だったことを知ると楽曲に対する感動が深まったり、浜崎あゆみの「M」が当時付き合っていたプロデューサーに向けての歌だったと知られると、20年近く前にリリースされた曲がシングルチャートで上位にランクインしたりする。ちなみに私は「ロボットと人が紡ぐ物語」をコンセプトに曲を作り歌っているが、私がロボット関連の仕事に携わっていることを知っているのと知っていないのとでは、きっと聴いたときの印象が違うだろう(どう思われているかはあまり知りたくないが)。

 「キャロル&チューズデイ」にも様々なミュージシャンが出てきて、それぞれが歌う場面でその人の人生が深掘りされており、更なる共感と感動を生んでいる。
 ちなみにこの時代のAIによる作曲は、歌い手の生い立ちや生活習慣などの背景だけでなくその時のバイタルから読み取った心情なども全て曲作りのためのデータとして活用している。では、すでに楽曲には歌い手の人間性が反映されているのでは?・・・となると、

 AIを使っていないキャロルとチューズデイの曲が胸を打つ理由はなんだろうか。

 ここまでくると、「想い」という不確かなものしか思い浮かばない。

 曲を作るのは、誰かに聴いてほしいからだ。想いを伝えたいから曲を作り、歌わずにはいられない。伝えたい、聴いてほしいという焦燥感は不安定さも生むが、それが却って聴いている人の心を揺さぶることもあるだろう。私も歌い手の端くれとして、そこだけは負けたくないと思うのである。

「キャロル&チューズデイ」