iRooBOマガジン

vol.6~瀬名秀明が描く、アフター2025の社会と私たち~

読んでフムフム・見てフムフム2019.10.10

こんにちは。マツイデです。

このコーナーは、わたくしマツイデが、ロボット関連の本や映画、見たいロボットや会いたい人など、読んだり見たりしたことを徒然なるままに綴る、ふわっとゆるっと読んでいただくコーナーです。お仕事の合間にでもお付き合いくださいね。

「魔法を召し上がれ」 瀬名 秀明 著

もう10年以上前になるが、本書の著者である瀬名氏と一度お会いしたことがある。
当時、大阪駅前第3ビルにあった大阪市のロボット産業振興拠点「ロボットラボラトリー」に、iRooBOの前身である「次世代ロボット開発ネットワークRooBO」の事務局があり、私は新米プランナーとして働いていた。このロボットラボラトリーに、大阪大学の浅田教授を通じ、瀬名氏がロボット関連の小説等の執筆にあたり参考文献として集めたロボット関連の大量の書籍を寄贈いただいたのだ。そしてそれが縁となり、ご講演をお願いしたのである。瀬名氏はとても物腰の柔らかい聡明な方で、お話も非常に分かりやすく楽しかった。また講演から数日経った後、瀬名氏から手書きのお礼状が届き、企画担当だった私は感激し、一発でファンになってしまった。

そんな瀬名氏が2019年5月に上梓された本書は、高校時代に同級生を亡くした孤独なマジシャンのヒカルが、人型ロボットのミチルや取り巻く人々に支えられ、心の傷を乗り越え成長していくお話である。マジックと料理とサスペンスに彩られたストーリーはもちろんとてもおもしろかったのだが、ここでは、物語の舞台となっている時代背景やロボットの描かれ方に注目したい。

舞台は、2020年の東京オリンピックの後、更に2025年開催の大阪・関西万博が閉幕した数年後。VRやARが日常的に使われ、自動運転車が普及し、介護施設や厨房や運送会社ではロボットが当たり前に働いている。
そこでは、現在私たちがよく耳にする「将来、AIが人間の仕事を奪うのではないか」という話も過去のエピソードとなり、法整備などを含めた社会としてロボットを受け入れていく過程も非常にリアルに描かれている。特に、ロボットが全面的に受け入れられているわけではなく、ヒカルがマジシャンとして働く半自律型ロボットやセンサが駆使されたレストランに対しては批判する人もいたり、また、ミチルのような人型ロボットは高額なため一般には普及せず、富裕層だけのものだったり、といった、テクノロジーとの向き合い方や距離感が絶妙なのだ。これらの具体的で精緻な描写は、この通りに世の中が進むのではないかとすら思えるし、試行錯誤を重ねながらも10数年後はそうであってほしいと願う、ロボットと人が共生している社会がそこにある。

私はこのような、誰もがロボットやテクノロジーを使いこなすことができる世の中を実現したい。いや、その一助を担いたい。それをめざしてiRooBOの取り組みも展開しているつもりだ。
ヒカルは言う。「いまは少数の人にしかわからないこと、ほんのわずかな人にしか馴染んでいないこと、それがいつか大多数になったとき、ぼくたちは未来に立つんだと思います」と。

ところで、冒頭の瀬名氏から寄贈いただいた大量の書籍は、SF小説から鉄腕アトムなどの漫画、絵本、哲学書、技術書・・・と多岐に渡り、おそらく貴重な初版本なども含まれている。それらは現在、大阪南港ATCにあるiRooBOの拠点「Robo&Peace」にて、「ロボまちライブラリー」として一般の方に読んでいただけるようにしている。
子どもから高齢者まで、Robo&Peaceでロボットに触れ、ロボまちライブラリーで本を読むことで少しでもロボットに興味を持っていただけたら、本当に本当に小さな一歩だが、未来につながっていくと思うのだ。

「魔法を召し上がれ」瀬名秀明著

※ロボまちライブラリーでは、本の寄付も受け付けております。ロボット関連の本をお持ちの方がいらっしゃいましたら、iRooBO事務局までご連絡ください。

ロボまちライブラリー@Robo&Peace詳細